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脳内世界地図ミクロ -楡井ズム増刊号-

 
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即興詩篇

『水色の魚』

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 目の前で転んだのがあまりにも滑稽で、悪いことをしたなと思う。


 水たまりを ばしゃばしゃ 音を立てて猫が行き過ぎていくのを、二人は見ている。
 膝をすりむいた女の子 名前は知らない まつげの長さを少し気に入った女の子のとなりに腰かけてときめく。
 こどもだよね、と
 つき放した彼に いまこの様子を つまりほんとうのこどもと比較できるような状況を
 見せてやりたいだなんて、気づいてから打ち消したくなる思いに揺さぶられる。

 猫とは仲よしだと、女の子はいう。
 姿の見えなくなった猫の、おもかげを便りにして、
 女の子が猫の腹を撫でているあいだ、猫は窮屈そうな和らぎのない表情だったことを
 教えてあげたら むしろ言いつけた、に近いのかも
 女の子にふてくされてしまって、それきり黙りこんでしまった。

 友だちいないでしょ、と
 こころにばかにされた気がして、息さえつぐんだら、
 それは女の子の声で、左を向くと、女の子の丸い目 あの長いまつげの 猫のような瞳が、
 にらんでいた。
 いないから、なに。強がるつもりもない、そっけない対応。

 水色の魚がいて、空色の鳥がいるのに、私たちは色に染まるのを拒んで 怖がって
 色に馴染むことをしらない。
 とかいうのも、女の子の口だから、もっとやわらかいことばだったはず。
 化粧だとか、空気だとか、目のおおきさだとか、肌理とか、
 つづけて羅列する私の思いつき、首をかしげたら女の子の頬がすこしだけ緩んだ。

 ほんとうは 友だちがいないのって、と
 女の子は、女の子のことを話しだす。
 きっと六歳前後の私の話だから 別にそうではないけど そんな気がして、
 耳をかたむけた。
 女の子もまた、じぶんのことだなんて思っていないのだろう。気がついたわたしはすこしだけ大人だった。

 水色の魚も、空色の鳥も、いるのかもしれない。
 けれど、どうせならじぶんの目で見てみたいじゃない。
 先に見つけた方が勝ち、とか、なんとか、
 明日またここで逢う約束をして、女の子と別れた。
 翌日、立ち寄って、しばらく待ちぼうけていても、女の子は来なかった。

 十年以上もまえのじぶんがそんなに頻繁に会いにくることもないだろうし、
 家庭の事情で、女の子は、来られなくなっただけなのかもしれない、なんて収まりの悪い想像
 うそをつくような瞳ではなかったと、思ってそれっきり、
 けれど、女の子こそ、水色の魚だったのかもしれないなんて、変なことを思いついた。
 行きちがいになったのなら、わたしが女の子にとっての空色の鳥になっているのかもしれないし。

 吹きだしたりして、ごめんなさい、と
 あの夕方のうちに謝ればよかった。
 逢えないことがさびしいと感じながら、毎日は
 雲のようにゆれていく。
 さよなら、とひとり、裏切りに強がって手を振った約束が果たされなかったあの日、
 わたしに足りなかったのは、女の子を待つ根気なんかではなく、足もとの
 雨上がりの
 水たまりを
 気にする余裕だった
 魚も鳥もいないけど、内からも外からも湿った感傷にひげを濡らした
 こちらを覗きこんでいる猫こそ、わたし
 泥をかぶった白い猫、のような わたし。

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