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脳内世界地図ミクロ -楡井ズム増刊号-

 
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即興詩篇

『パピヨンの伝説C ‐笑傲劇‐』

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適当に作った世界だから適当に滅べばいい と 亡者の寝言を聞いた。


 朝―――。

薄荷の列なる小径を上り往く驢馬と御者、老害の風に布を旗めかせる。
驢馬は暴れない。黒く巨きな犬が門前で口を開けていても、頭を垂れたまま進み続ける。
外反母趾の蹄を引き摺り、重荷をよいせと担ぎ直す。口笛に魔が差す。

幻惑な花の香りだけが飄々としている砂地の公園で子どもたちは待つ。
驢馬は笑わない。家畜にも解る道化の可笑しみに満ちていても、そそくさと陰に引込む。
地に振動。砂埃舞う。粉塵が血迷った猩々蠅となり宙返り、これも白内障の見せる幻か。

 昼―――。

昨夜の深酒のせいで午前から逆上せた郵便配達夫が道端で胡坐をかく。
傍らには毀れた自転車。借り物である。借り物であり、安月給を続ける為の担保である。
煙草を持つほど豊かではなく、そこいらの草を千切り銜えて誤魔化す。

水妖が浸透しているかのような空に、模倣の地図を描いた白絹の鱗雲。
どうしたものかと巡らす内に、脳裏で描いたとおり山脈の向こうから、鋼色の蝶の群れ。
空に波動。雲が遁走。気化した汗さえ痺れるほどの亀裂の気配。宿酔のせいに違いない。

 夜―――。

蒸着したのは名も知れぬ金、装飾鏤めた加工布で裸体を秘して踊る女。
模造宝石には男衆の精子を封じ込め、与える餌は楽屋裏、もしくは賭場での紙幣の紙屑。
肌蹴、腰を捻り、裾を引き上げ、冒険者を誘う罠の宝殿を演じる、女。

顕わになった肩甲骨の下、翻った蝶の入墨に触れた男はとうに海の底。
悲しみは口紅を重ね塗りして悦びに換え、抱き寄せた熊の縫い包みには、懐かしい匂い。
目蓋を開けば電飾の鬩ぎ合う舞台上、肩が羽ばたいた瞬間に、ネオンが騒ぐ、街に機動音。


 墓石のパズルを解き、続く荒野を渡り、更に荒涼とした跡地を訪れた詩人。
  黒々と焦燥の徒が転がる街角で、野犬の骨が風に攫われる瞬間を見る。
   言付けを信じて削いだ鼻だが、視野を侵して腐臭が喉を突き破る。
    市街地は静電気を帯びたか、口を覆う手首が醜く異常な震え。
     詩人の脳が恐怖を帯びる、衣臭い僅かに笑いに似た恐怖。

  広場の壁には行儀の悪い抽象画。黒鉛に見紛う絵の具は錆の浮いた血痕である。

     麻薬を嗜む花弁のような、魔術に屈した雄牛のような。
    歪んだ輪郭に夢魔の俤を見、置物となり息を呑む、朴詩人。
   妄想は落書きにことばを覚え、居もしない画家の声、耳を啄む。
  悪魔来りて悪魔来りて、安直な、馴染みある地獄の声援に胸を病む。
 解いたと思ったパズルはなんてこともない未完成のパズル。寄道をした。


驢馬は兵士となり、金貨を愛でて成金と化した。数世代の間には苦難があった。
配達夫は釣鐘草となり、狭められた区画の端で石と雑草に埋もれて咲いている。
女は噛み砕かれて城壁の頂上で揺らめく軍旗となり、銃砲の謡曲を聴いている。

身支度を整える詩人の背中を瞠るのは、戦火が画才を創った、抽象画家の幽霊。
詩人の眼には勇壮さが宿っていない。ぶくぶくと肥えた鉄の塊が降った刹那の。
街道を灼きつくした紅蓮と相似、藝術の火。行くがいいさ、灰色の懐嚢の中へ。

幽霊の消失も知らず、詩人は幾つもの街を通り過ぎる。西へ、西へと突き進む。
荒廃したどの街にも探しているものは見当たらず、ただ悲壮が付き纏うばかり。
浮遊する魂が詩人に古い詩を唱えさせる。――途轍もない悲しみが衣服を破り。

 詩人は知らなかった。

花時計の迷路を抜け出せずにいた孤独の蝶を一度、掌で捕らえたのは彼である。
詩作も恋も、恐怖も知らぬあどけない少年の頃の彼こそ、蝶の救い主であった。
故に海岸に出た蝶が帝国へ辿り着き、指揮官の夢枕に妙薬を振り撒いたことも。
指揮の元、詩人と二、三も違わぬ軍曹が、操縦士に離陸の合図を示したことも。
操縦士の指先ひとつで蓋が開閉し、愈々、市街地上空で投下が為されたことも。
弾頭は宙で翅を広げ優雅に空を舞ったこと、地上の民の頬が緩んでいたことも、

 知らない詩人は野宿をしながら、幼少期に読み聴かせられた詩を朗読する。
 反芻する。
 堪能する。
 妄想が濃紫の翅を広げ詩人の脳裏を旋回したとき、世界は寒気に嘔吐した。
 詩に恋をし、ことばに恋をし、蝶に恋した詩人はその恋を三人の娘に描き、
 愛撫する。
 性交する。
 鱗粉に鼻の粘膜を刺激され、ひとつ嚔をする、詩人という名のただのひと。
 鉄が降る、
 夢をみる。
 亡者の寝言はト書の類……と囈語を唱う詩人の頬は、稚く緩む。蝶の様に。


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