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脳内世界地図ミクロ -楡井ズム増刊号-

 
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擬装図書館 ℵ ~アレフ~

ℵ12『人と鳥』

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ℵ12『人と鳥』・序文

 擬装図書館 ℵ ~アレフ~ 第12巻『人と鳥』をお送りする。
 時空に偏在するあらゆる物語を蒐集し取り揃えた当アンソロジー、第11~20巻までは人外へのアプローチを念頭に置いている。前巻『我、獣に非ず』では地を駆るものという制限を設けていたのも本書を見越してのものだ。地・空と来るからには次巻以降、海・宇宙などと続くことはいうまでもない。
 さて、本書のテーマは鳥である。
 もっとも図鑑の鳥類の頁を紐解いても分かるとおり鳥は総じて空を飛ぶものではない。本書では登場する鳥の性質ごとに分類をしているわけではないが、一般的な空とは不似合いな《鳥》も登場するし、飛行能力のない鳥もいる。広漠とした地を瞰しながら翔る猛禽類やら、鳥籠のなかで囀る家禽、生物図鑑には“まだ”載っていない蜥蜴の末裔から機械の羽を持つ飛行機さながらの《バード》、夜の夢に羽ばたくものまで多種多様さは前巻にもまして自由。
 全14篇、彼らの翼に掴まって行きましょう、想像のソラへ。




【作品解題】(*は、登場する主な鳥)

『巨鳥ルクの系譜』 蟻塚清彦 *巨鳥ルク
 独特の語調を用いて、東西問わず幻想世界の住人たちとの共存を描く物語詩を書き紡いできた作者。その躍動的な物語群のなかには《鳥》に関する詩篇も少なくはない。なかでも『巨鳥ルクの系譜』は、一羽の鳥の誕生から往生までの交々に、近親に属する霊鳥たちの伝説を取り入れた伝承録が重ねあわされた奇篇である。
 亜剌比亜の不死鳥伝説、波斯のシームルグに印度のガルーダ、果ては東欧のグリフォンや中国の大鵬などとも交合し謳歌していく様は、生前“病み卯”とも称された(性に奔放な)作者の主観が如実に表れているとはいえないだろうか。


『ボイルドエッグBB』 ダニー・バナーボーイ・ジュニア *アヒル
 卵を焼いたら言葉の喋るアヒルが孵った。茹でなくてよかったと思う。”という一文から始まるスラップスティックコメディの雄が放つハードボイルド。
 描写を汲み取れば明らかにその生物はアヒルのような形状ではなく、単なる鶏卵の化け物でしかない。しかし、登場人物たちも至って和気藹々で、一見、ハードボイルドとは程遠い。“卵が割れた”ところからはまさに生まれ変わったかのように街を駆けずり回る主人公の奮闘が描かれるが、粉骨砕身する彼の動機が明かされた途端、やはりいつものバナーボーイだと納得する。人でなしは健在である。
 


『琥珀鳥綺譚』 ウーフィ・ジェロイド *白鳥・黒鳥
 著名なバレエの曲目に代表されるとおり、白鳥と黒鳥の対比は清純な美しさと邪悪な美しさを愉しむには格好の素材かもしれない。それは俗にいう《ジキルとハイド》の手法でしかないのだが、それらとも異なる白と黒のコントラストが『琥珀鳥綺譚』の真髄にある。
 たとえば刳り貫かれた鯨幕を通して見る虎が、黄色一色の珍獣になりかねないように、琥珀鳥とは作者が得意とする文法による騙し絵の一種である。その一方で、南国に棲むような極彩色の鳥のいない南欧を舞台にしているからこそ、鍍金の剥がれた琥珀鳥に見られる“悪食な美貌”の絵画的おぞましさが堪能できるということだろう。


『鴉の末裔』 吉川楡井 *鴉
 1000文字小説を100編余り書き落とした小生だが、鳥を扱ったものは少ない。
 本作に登場する鴉も不安の象徴として用いられているに過ぎないと思われるが、“咎でできた翼”で羽ばたき“末裔”と化す結びの部分に、人と鳥とも見紛う悪鬼のヴィジョンを見出せる。


『オウストリッチ海岸』 オルガ・W・ジン *駝鳥
“カルトホラーの枠組みでミステリーの回路を作る、すると出来上がったのはバカSFの三等品”。作者自らが提言した創作作法。枢軸として挙げられる(というか、どれもそうなので本作が特筆しているわけではない)のが『オウストリッチ海岸』。
 とある島の、海に面した小高い丘の上に立つ、トロイの木馬を髣髴とさせる木造ダチョウ型のハリボテ。数百メートル離れたコミュニティに生まれた少年が、浜辺に打ち上げられた襤褸姿の男を拾った。男は「オウストリッチを奪いにきた」と言い捨て……、くだんのハリボテを巡る自称・魔術師の男と島人の攻防を描きながら、幾度も反転していく島の掟に隠された意味。
 決して上等なミステリーを好む御仁にはお勧めできないのだが、不親切なアンチミステリーに留まるかと思いきや、倫理学を追求しすぎてしまったバカSFに変貌を遂げていく様は唖然の一言。


『ガルーダにはなれない』 カンダッタ・ペシー *タンソクマガドリ
 童話『みにくいアヒルの子』を下敷きにしたものといえば紹介は容易いが、作者の主眼はそこにはない。主人公である創作の鳥・タンソクマガドリの名前がバトランであり、向かう土地の名がシカゴであることからして、南米の伝奇作家ムスカ・アントーニオの『比類なきバトラン』のオマージュであろう。自律神経失調症を患い、幻視癖を持った世捨て人アサド・アサドがシカゴに行き着き、悪魔《金喰い》との死闘(実際は企業の役員ばかりを狙う連続通り魔)を描くアントーニオの代表作である。ちなみにバトランとは、アサド・アサドに取り憑いた鍵型の妖精のことである。
 そのことを踏まえると、決して原典のようなスプラッターに陥ることなく、子どもも愉しめる寓話ファンタジー、むしろ絵本にしても喜ばれるような作品になっているが、ガルーダになることを夢見て、青銅境シカゴを目指したものの居住する土人たちに雇われこき使われることになったり、ストレスで十円禿げができたりと、哀切なるラストを含めて子どもが読むには悲観過ぎるのが欠点か。しかし親父世代には涙なくして読了できぬ佳品なのである。


『物云ふ靈禽』 良川飛龍 *インコ
 依田球坂、弓削鉄雄とともに怪談SFの提唱に励んだ作者。
『物云ふ靈禽』はペットのセキセイインコが呼び寄せる怪異を描きつつ、当時でさえ古めかしい題材であった人工知能論を取り入れている。本書収録作のなかにもキャラクター小説として鳥を描いた数作があるが、本作はその逆手をとる技法と怪談特有の恐怖の描出が両立しているとはいえないだろうか。
 創作ノートによれば代表作『暗黒魔天楼』より先に筆を執られているようだが、云ふ-異父-畏怖-IFという言葉遊びが同じ血脈のあかしだろう。


『火の使者、光の母』 美作融子 *バード
 19☓☓年、労働民とOTTERとの内乱により二分されたTOKYOに飛来した、二対の越空兵器《サロニモ&ファヴ》。超低速飛行ながら確実にTOKYOのど真ん中を軌道の終着点としている二対を撃ち落すため、OTTER研究所が生み出した超弦惑格納ポッドつき戦艦《コンジキ》は空に発つ。
 二十年後、開発途中のまま放置された人里離れた山奥で、鬼の子・蹴人(けりひと)が奇怪な小箱を拾う。その頃、蹴人が住む鬼の村では、壮大な親子喧嘩が始まっていた。
 架空の世紀末と並行して御伽噺風情の鬼の子の冒険譚が語られていく構成に、時空を内包した《バード》=《コンジキ》の介入により歴史改変ものの息吹を与えられた作品。
 荒唐無稽なSF設定が、伝奇の枠物語を採用することで逆説的に信憑性が強まってくるところに注目。


『ニワトリ派とフクロウ派の低俗なる鬩ぎ合い』 牟田愁 *ニワトリ、フクロウ
 大学のキャンプサークル内で繰り広げられる二派問答。メロンパン派-クリームパン派、コカコーラ派-ペプシコーラ派、トリッキー派-スピード派、など勝敗が決まっていくなか、朝派と夜派の勝敗がなかなか決まらない。代替法を用いて、ニワトリ派-フクロウ派として新たに問答が開始されるが……。
 学生風情の思考の柔軟性、暴力性が克明にされている一篇だが、引き合いに出されるニワトリとフクロウはたまったものではないであろう。青臭い毒を孕んだ、モダニズムの新鋭が放つ変な作品。
 ちなみに、作者の大学生時代に実際にあった出来事が下敷きとなっているらしい。


『Ca-Qoo』 飯屋チバル *カッコウ
 書名の『偏差値情緒宇宙』は『偏差値上昇中』の誤字をそのまま流用していることからも、誤字作家として名高い(?)作者による唯一の非SF作品。
 とはいえ根幹にあるのは明らかに鳥型アンドロイドとロボット三原則のシナリオであり、強引に鳥人間コンテストとひと夏のバカンスを盛り付けした小品である。
 なにゆえアンドロイドを人間だと偽る必要があるのか、作中の言葉を借りれば「人間でなきゃ意味ないわ!」とでもなるのだろう。ちなみに本作中の誤字(と思われる)は四箇所あり、文庫化に際して二箇所修正されている。


『信天翁(アルバトロス)の殺人』 森田暗鬼 *アホウドリ
 1800年代後期、鴉片窟と化した薔中館にて催された闇賭博。その最中、広間の電燈が消え、中央の卓上で大蔵省の役員・髑髏崎和平が胸をナイフでひとつきにされ殺されていた。もっとも近くに立っていた髑髏崎の友人で、久遠財閥の令嬢・時子が疑いをかけられる。屋根裏から事件の一部始終を目撃していた男・蒲生は時子が犯人でないことを知っており、疑いを晴らそうとするが、彼には姿を現せない理由があった。
 古きよき探偵小説の風情で愉しませた挙句、とても巧緻に仕組まれたサスペンスであるが、終盤、秘匿の恋を描く恋愛小説となり、作者のライフワークである隠者・蒲生殺生シリーズは本作で完成された。


『凍土に棲むダチ』 ヤナギ・バックウッド *ペンギン
 飛べない鳥の代表格であるペンギンの登場。十数年前に捨ててきたペットのペンギン、ロット=マイヤース。彼を捨てると決意した日から実行するまでの一ヶ月と、捨ててから今日までの日記で構成されている。“とびきりかわいい”と評判のロット・マイヤースをなぜ捨てなければならなかったか、というハウダニットの要素もあるが、ここは四十男とペンギンのストレートな家族小説として読むのが正しい。


『鳳凰の飛ぶ新宿で』 弓削鉄雄 *鳳凰
 清掃業者にまつわる怪異と無職が増えている現代社会の病理を縦軸に、大人の通過儀礼を描く。
 窓ガラスに映る鳳凰の登場シーンだけでも見ごたえがあり、圧巻。そのシークエンスが刹那的なものであるように、鳳凰が去った後に主人公の仲間が発した言葉、それは決して息の長い言葉ではないが、日常生活に疲弊を感じる者ならまず間違いなく強かに胸を打たれることだろう。


『光線銃』 依田球坂 *影絵の鳩
 小学五年の秋、町の広場に移動映画館がやってきた。映像の魔力の虜になった少年タチは幼馴染の少女マキナとともにガラクタで溢れかえった発明おじさんキルト氏を訪ねる。キルト氏なら小型のキネマスコープを作ってくれるかもしれないと思ったからだ。するとキルト氏は白い布と電気スタンドを持ち出してきて……。
 西洋ファンタジーの手触りと和製ノスタルジアの共存を目指したメルヘン。影を用いて輪郭だけを取り出し、俗にいうナスカの地上絵の謎を解き明かす(可能性をほのめかす)など、遊び心に溢れた一篇ながら、怪談SFの提唱者だけに引き際の怖気は暗澹とした影絵そのものである。



 以上、14篇。
 本書では自由の象徴としての鳥を鏤めたつもりである。より核心的な、飛行者としての鳥は、いずれ《飛行》テーマで忍ばせるとしよう。次巻は空と対照的な水のなか……鳥よりも種が細分化される魚たちの王国が舞台である。是非、水妖の眷属たちとの遊泳をごゆるりとお楽しみください。
 それでは次巻、ℵ13『水魚の混沌』でお逢いしましょう。



【所収一覧】

『巨鳥ルクの系譜』 蟻塚清彦/『虚構集』所収
『ボイルドエッグBB』 ダニー・バナーボーイ・ジュニア/『ハード・スケジュール』所収
『琥珀鳥綺譚』 ウーフィ・ジェロイド/『ジェロイド詩篇傑作集』所収
『鴉の末裔』 吉川楡井/『千文字の饗宴 怪奇の章Ⅰ』所収
『オウストリッチ海岸』 オルガ・W・ジン/『マンゴー密林の甘ったるいパフェ』所収
『ガルーダにはなれない』 カンダッタ・ペシー/『ガルーダにはなれない』所収
『物云ふ靈禽』 良川飛龍/『楽園追放』所収
『火の使者、光の母』 美作融子/『銀極のパエリヤ』所収
『ニワトリ派とフクロウ派の低俗なる鬩ぎ合い』 牟田愁/『完全変態の午後』所収
『Ca-Qoo』 飯屋チバル/『偏差値情緒宇宙』所収
『信天翁(アルバトロス)の殺人』 森田暗鬼/『冷えた群青と信天翁の殺人』所収
『凍土に棲むダチ』 ヤナギ・バックウッド/『セレモニー』所収
『鳳凰の飛ぶ新宿で』 弓削鉄雄/『夜のアトランティス』所収
『光線銃』 依田球坂/『夕顔たち』所収
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