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脳内世界地図ミクロ -楡井ズム増刊号-

 
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即興詩篇

『ロマンセの名はギャラクティカ』

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銀河には銀河の仕来り 何時ぞやの妖女 跨る箒星 巡る千年回廊



 ブルージーンズに溶ける雲のうえの懺悔。時に呼吸もなく、無意識下の空想の閾値をすんでで躱し、銅鑼を鳴らす真夜中の社交星団。女が手に取ったのは蒼穹のネクターで、男が取ったのは矮星色のスピリット。白か黒かも分からないじゃない、なんて嘲る女のグラスを奪い、流し込むと可視領域限度枠内の透明物質の渦。綺麗だけど好みじゃないわ、強いのは苦手なの、女の声をも吸い込んで銀河が廻る。時折、引き伸ばされる妖艶な笑みに、不意に迸る小宇宙の耀き。

 鎖されたタキシード素材の清潔感ある無重力室。引力作用のお試し期間を延長しますか。アナウンスが一定速度で近づいてくる。寝巻きは肌蹴、寝言うわ言でさえ浮力をもち、漂っている白くて丸いものは、ヘルメットかと思えば今際の夢の疼きである。それは艶かしく、尾を引いて転がる様は、抜け出た魂のようでもあり、端整ながらも触れるには忌まわしい質感。寝返りを打てば腰の骨が軋み、きっと上気の所為で変な体勢で眠っていたのだろう。超見識知能が嗤う。



辿り着く先 銀河の彼方 夢の最中 出逢えぬ貴方



 故郷であれば樹氷の柵で、童話であれば氷魔の牙だろう、そんな冷ややかな檻のなかに居る。船体は今にも凍え滅びてしまいそうな小惑星の縁に降り立ち、地盤にユンボを投入しようとしていた。吹き上がる霞は目晦まし、競り上がる岩盤は互い違いに連なる逆さの氷柱。切っ先に映る銀色の船体、鏡面部分に見てはならぬものを発見。解析終了。幻であり、女の顔。

 単独飛行が常となる時代、活動の原動力となるのが超見識知能であり、その器となる小型舟艇である。傾斜角三十五、速度三百五十から五百が限度、リース契約は六十年、十年を経たところでいま海に出ている。仮初とは云えないものの、生命力とは異なる趣き、静けさに満ちた光と闇の只中の海、無水圧の海。故郷を久しいと感じたことはない、人恋しいとは、否。



辿り着く先 銀河の彼方 裸と身体は要不要 なだらかな斑 浄不浄



 八十日かけ市場へ着く。十字の塔にドーナツ状のステーション。稲妻に似たサーチライトが第一形態から第五形態まで電波状態につれ変形を繰り返す人工衛星の翼を貫く、夕映えの都市、と云っても陽射しは関係なく内壁の街灯ランプが仄かな橙色を示す時間帯。人々は螺旋ベルトの中央に屯し、オープンプールや地下カジノ、ムーヴィーシアターへと急ぐ、キミも。

 カウンター席に腰掛け青い電飾の下でヴァイオ・レットに火を点ける。隣の席のカップルが嫌がって席を離れる。ここは禁煙席かい、訊ねるとバーテンが呆れながら首を振る。出された灰皿にはサジタリアスのシンボル。バーテンの背後には狙撃手という店名のエムブレム。気に入ったよ、と呟く間もなくキミが現れる。たった十光年の遙かからやって来たみたいに。



起キテクダサイ。緊急事態発生。起キテクダサイ。煩いんだよ、超見識知能。



 どこかで逢ったとキミが訊ねる。別の星で、或いは故郷で。キミは笑う。お生憎様、私の故郷は貴方とは違う星。訛りですぐ分かるもの。ヴァイオ・レットを揉み消して、キミに酒を勧める。メニューバーを引き出し、キミが好みのキーに触れる。選んじゃった、貴方の奢りよ。後ろで若者のグループが呑み較べをしている。横目で見、キミを見、さも自慢げに肯く。

 酔いが廻る頃には店内の喧騒は落ち着き、一端の大人のムード。土星の輪を忠実に縮尺した窓から、乱れ飛ぶロケットが見える。宙で爆破し、瓦解した機体、今日は祝祭よね、とキミが云う。頬を綻ばせたのはキミが先で、萎れて息を吹き返した雪花のようで、堪らなくいとおしい心地になったが、どこか騙されているような気がしてならなかった。歓声が上がった。



起キテクダサイ。主人、相棒、老イサラバエタ同志。余計なお世話だ、超見識知能。



 祝杯の味は覚えていない。キミに勧めたあの透明な液体も、もしかしたら何かしらのエーテルで、もしかこの世のものではないのかもしれない。座った目にキミが映る。ふやけた室内、キミのルージュ、サファイアン・ルージュだけがそこかしこに浮ぶ。もう一杯とバーテンに差し伸べた手が、不意に重力を失って、だらりと宙を掻く、その数秒の、狂騒、瞬きの死。

 星雲を巻き込み、推進熱を昇華させ、細い線状の渦を描く回転木馬。切れ切れになったルートのうえを暴走する星間ヨットの帆に受ける太陽風の暖かみ、感触は、キミと出逢った瞬間を封じ込めた霊媒。ポシェットに入れた緊急用発火ランタンの燐の匂いが、酒の香りキミの香りを薄らがせ、ひやりとした孤独の予感を強くさせる。起キテクダサイ、超見識知能の声。



静寂の鐘は生命のなかにあり 時を刻む音さえ その耳は聞き取れない
夢の展望台は瞼の裏にあり 見渡す聡明な海原でさえ 遠くに感じる 無為に感じる



 また独り、旅に出る。あの、リゾートに電子光学を帯びさせた都市がなんだったのか、壮大なパレードがなんだったのか今は解せない。それらよりもバーで出逢った女が誰だったのか、それよりも、どうしてあの女のことが頭から離れないか、どうしても解せない。私はあの女の何処に惹かれたのだろう。超見識知能が、キミ、と呼ぶ、あの女の何処を、私は愛して。

 記録される言語、描出される文章、すべてを拾い上げていっても、巻き取られていくブレーンディスクの先にある記憶へは辿り着けない。相棒が孤独へと寄り添い、また独り、セルフテリングをしている傍らで私は何を思うのだろうか。独白が物語とイコールで繋がれ、孤独に定着したとき辿り着く先は暗黒の無我。見届けてから、私も帰化シテイクノダロウカ……。



相互の哀しみは頭蓋のなかにあり 相互の慈しみは心の臓のなかにある
齟齬は互いの広大な精神の器量にあり 重ねて互いの壮大な恋慕にある 狂騒にある



 満ちていく宙、涸れていく空、舟艇の軌道に合わせてなだれ込んでくる弾道、満干の差を狂わせたのは流星雨であり、郷愁の怖れである。一枚の絵画に傷が刻み込まれる瞬間とも云い、清澄な小川に注ぎ込まれた重油の帯であるとも云う。片割れは混濁を愛し、又ひとつの片割れは無秩序を受け容れられず地に堕ちる氷柱の切っ先となり、汐で濯がれ、いま、溶けた。

 秩序成す空間で水と埃とが交わりあって、昨夜の夢のつづきを視始める。耳栓を外しベッドから転げ落チルト、窓の外ハ吹きっさらシノ夕映えの表土、ハッチを開ケテ踏ミ出す一歩、遙カ地平の境界ノ際に佇む面影、目が霞ムノは寝惚け眼のセイダろうか。蒸発スル舟艇、風化スル足跡、行く先ハ知っテイル。独白が秘匿しテイたコスモナウトの夢デアリ、回路ノ恋。



銀河には銀河の仕来り 何時ぞやの妖女 髪靡かせる火星の風
精巧な意識もやがて忘却の彼方 見送る箒星 辿り着いた千年回廊

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