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脳内世界地図ミクロ -楡井ズム増刊号-

 
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即興詩篇

『誰かの火』秋

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 秋、暁の誰かの火だ
 滅多に笑みを見せぬ娘がいて、白粉、今はフアンデと呼ぶべきか、大した化粧もしていなければ、皮膚特有の色素欠損を疾病んでいるのでもない
 肌の白い娘だった

 彼女は、授業中、恋文の作法を学んでいた
 セロテープの剥し残りが痛々しい、昔気質の黒板のうえを、チョークの粉、ころころとした石灰の塊が滑り落ちている頃、必死で漢字の書き取りをする僕ら、傍らにその日、木曜日、目覚めた瞬間から臍の奥に巻く淡くも鮮やかな赤い渦を感じた少女が、胸骨に沿ってのし上がってくる火照りを何かの暗合と決め付け、思いを言葉にしているのである
 特別の相手、挙げるとすれば夢中の鸚鵡であり、それは耀かしき翠色の妖鳥であり、或いは彼女が心許して人語を話し交わせる唯一つの存在だったりする
 宝石に彫ったようだった

 そうして僕らは勉学を諦め、女を知る一方で、永遠に少女の幻を夢見ながら、自涜に走り、幾星霜の轍を歩むことになる
 繰り返し覘いたるは、ショウケースのなかの娘の寝顔か
 はたまたとびきり上等なブランデー、それも都市の夜会に毒されてしまった嘗ての友人に、餞として贈られた魔法の薬を気まぐれに溶かしてみせた好奇な、寧ろ高貴な、一杯
 嚥下する喉は今や逞しく成長し、円卓を挟んで座す彼女の目にもはっきりと、小動物のように上下するのが分かるだろう
 可愛がる、あやしてくれる、
 そんな喉で口ずさむ校歌に、彼女は調子を合わせて一口、酒精に唇をつけ、土瀝青の溶液を浴びる、冷えたマグマのうえの荒廃土

 乾涸びた摩天楼映し出す夜会の窓
            燈り出す官能の窓

 作法を試すのは疲れたの、と彼女云い、
 紅潮した頬、産毛は軽やかに咲えど愛撫はせずに、どちらともなくアルバムを畳む黄昏
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