FC2ブログ

脳内世界地図ミクロ -楡井ズム増刊号-

 
スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←『反芻殺人』 →『紗々の稀釈』
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



目次  3kaku_s_L.png   スポンサー広告
  • [『反芻殺人』]へ
  • [『紗々の稀釈』]へ
*Edit

 
即興詩篇

『糸を曳け』

 ←『反芻殺人』 →『紗々の稀釈』


 そら、糸を曳け。
 わたしが凧である。

 乱暴に扱うな。近ごろはどうも風当たりが悪いから、すぐに千切れてしまう。
 おまえよ、糸を曳け。
 まっすぐ腕を空につきだして、風をつかむのだ。
 おまえは手のひらを広げずして、風の脈拍を確かめながら、わたしを空に放つのだ。
 天地を返す、豪とした風。
 錐揉みをつづけてわたしは、折りたたまれないように踏ん張る。
 おまえはその手ににぎったものをさらににぎりしめ、指先に宿した力を、目を、肌を、鋭くするだけでよい。
 命がよじれる。
 よじれるのは、命。
 わたしにとっても、爪を手のひらに食い込ませたおまえにとっても、誰にとっても。
 命がよじれるのは痛い。
 だから諦めないでほしいのだ。
 わたしの命はおまえの手のなかだ。
 おまえのその薄汚れた指が、わたしの命のすみずみを撫でているようなものだ。
 墜落がこわいのではない。
 飛ばされて、雲の破片になるのも。
 木立の枝で背骨を毀すのも。
 そんなもの、なにもこわくはない。
 こわいのは飛ばないことだ。
 飛ぶことのないままに、糸を束ねたままに、錠の固まった倉庫にて風化するのがこわい。
 そら、糸を曳け。
 糸が切れて、おまえのみえないところへ消えてしまっても、決して後を追うな。
 おまえの指先がぷつりという感触を見つけたころには、とうにわたしは海の上。
 おまえの立つ地上より、はるかな西の果てにいる。
 だからわたしの行く先でなく、倉庫に眠る友のところへ向かうのだ。
 友を丁寧だが強引に揺さぶり起こし、ふたたび糸の感触をしっかりと握りしめ、草原に出よ。

 そら、糸を曳け。
 おまえに曳かれて空を泳ぐ友の、目の前を、ゆうゆうと横切る、
 不埒な雲のかたまりこそわたしである。
 永遠におまえの、友である。



関連記事
スポンサーサイト



目次  3kaku_s_L.png   即興詩篇
  • [『反芻殺人』]へ
  • [『紗々の稀釈』]へ
*Edit ▽TB[0]
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。