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脳内世界地図ミクロ -楡井ズム増刊号-

 
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即興詩篇

『07年の青』

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 溶けかかったバニラアイスのような空に向かって、血しぶきが飛んだ光景というものは鮮烈という言葉では置換し難いもの哀しさもあって、もしかすると俗にいう超現実という概念はこの感覚そのものをいうかもしれないと思い、たとえその鮮血が誰のものであろうとその一枚の前衛芸術のような光景を、のぼせあがった精神の隙間の至る部分で(例えそれがクオリアの生んだ幻影だとしても)明瞭と、極めて明瞭と、憶えている。
 そしてその時、人生が内包する悲喜劇の混沌とした糊代の部分に今まさに自分は立ち止まっているのだという確信を抱き、命よりも大事だとばかり思っていた存在の喪失感が鋭い痛みを放ち始めたのは、その後だった。
 偶然と必然の真理を解明した気分ではなかったが、少なからず、目の前に現れた現実と幻想の差異は、偶然と必然のそれよりも曖昧模楜として素直に嚥下出来ないでいる。現実なのか、幻想なのか、幻実なのか、現想なのか。時刻は午前三時を過ぎた。もう直ぐ、新聞配達員が帳簿を採りにくる。それ迄には私は、日記に思い認めた亡き恋人への恋文を破り捨て、忠誠の誓いに、呼び鈴に笑顔で出迎えなければなるまい。
 また、今日も新聞配達員は青を残していくだろうか。
 此処に住み始めてから、早朝の楽しみと言えば、青の、爽快な薫り……カモミールティーに胃薬を溶かしたような匂いで、好みが分かれる薫りだ。それに、会員だけが貰える葉煙草も美味だ。だが、新聞は読まない。隣人は新聞を蚕の餌にしているというし、また別の知人は湯に溶かし、紙風呂を楽しんでいるらしい。此処の住人はそうやって暮らしている。
 かくいう私も新聞は夜間の燃焼材にしている。インクのついた紙は燃えやすく、燐光は暗い部屋の闇に、幻想的な天象儀のような役割を果たす。それを眺めながら寝て過ごすと、途端に現実が朧気で、つまらないものなのだと哀しくなるのだ。何の為に生きているのか。
 今の私が、そんなことを深く思索するのは燐光を眺め、眠りにつく、ほんの些細な時間だけ。窓の外には鴉が鳴く。それもまた子守唄として慣れてしまった。夜は更けて、鴉がとさかを震わせると、ようやく朝が訪れる。私はそんな風に、一日を過ごし、またいつもの集会所へ足を進めるのだ。
 桜の根元に曼陀羅華が咲く春のことである。


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